用語集

用語集

金属屋根工事や板金工事では独特な用語が使われており、普段の生活では馴染みがなく意味が分かりにくいものが多くあります。そこでいくつかの用語について、解説を掲載します。
解説は、旧亜鉛鉄板会が発行しておりました『亜鉛鉄板』誌のVol.44 №5及びVol.45 №5より引用しております。執筆者はナガタニルーフシステムの永谷洋司氏です。記して感謝の意を表します。
なお、掲載にあたり省略等を行った箇所があります。

【あ】

相決り (あいじゃくり)

相決りは合決りとも書き、木板の継手め一種です。余談ですがこの ような場合の継手を木工事では矧ぎともいいます。相決りは図のよ うに板の両端を厚さの半分ずつ薄く削り取って隣の板と互いに重な り合うようにする継ぎ方です。内壁面の板の継手によく見掛けるも のです。板が乾燥して幅が収縮しても隙聞が生ずることがなく、雨 や風の侵入を防ぎます。
板金工事でも、相決りと同様の仕組みで継 ぐ方法があります。図の下がこの方法を示しています。しかし、金 属板は厚さが薄いので木板のような加工は不可能で、その替わり板 の厚さだけプレスによって凹みを付けたり、別の板を添わせたりし て相決りと同じ機能を持たせています。

亜鉛鉄板の呼び名 (あえんてっぱん)

亜鉛鉄板の数ある呼び名を拾い集め、表のようにまとめてみました。

なお表中
1)は、平井聖著「屋根の歴史」に掲載されている用語
2)は、亜鉛鐵板讀本の中の戸田運也著「トタン板雑考」に掲載されている用語
3)は、戸田運也著「トタン板雑考」に引用されている用語で大槻文彦著「大言海」によるもの

区 分 呼び名 摘  要

通常の
溶融亜鉛めっき
鋼板に関する
用語

日萄(タウタン) 1) ポルトガル語と思われるが不明
トタン 1) ヒンディー語と思われるが不明
  3) 江戸時代の米相場の呼び名という解釈がある
釷釩 1) 文久元年(1861年)に記録がある
亜丹板 2) 東北地方で用いられた呼び名で「平板亜丹板」といった
止多牟 2)  
1) ブリキ板と混同していると思われる
葉板 1) ブリキ板と混同していると思われる
塗炭 2) この意味はかなり拡張解釈されていると思われる
トタン曾所 2) 芝増上寺の釣鐘に端を発した亜鉛相場の意味でやや異なる
亜鉛鍍金    
亜鉛引    
亜鉛引薄    
亜鉛メッキ鋼板   JES  金属 0466
亜鉛    
亜鉛鉄板  

昭和15年発行の「亜鉛鐵板讀本」の表紙は「亜鉛鉄板」

亜鉛めっき鋼板    
溶融亜鉛めっき鋼板   現JIS の名称
GIシート   建築設計図に見られる単語、Galvanized Iron Sheet の略

波板に関する
用語

生子板 1),2) 明治5年の鉄道日誌、日本科学技術大系の建築技術編
生子銑 1)

明治5年の鉄道日誌

トタン蒲鉾板    
蒲鉾板 1)

明治5年の鉄道日誌

波形板 1)  
波形    
波形鉄板    
1)  
波鉄板 1)  
波板   現JIS の名称、ただし溶融亜鉛めっき鋼板の波板である

ぶりきに関する
用語

ブリキ 2) 嘉永年間(1848~1854年)出版の「蛮語箋」に出ている
ブリキ板    
錻力 1)  
武力    
ぶりき  

現JIS の名称

障泥板 (あおりいた)

神社建築、特に神明造りの社殿の棟によく見られる一種の雨押さえです。棟が屋根面に接する部分に、雨仕舞いを目的として屋根葺材を押えて取り付けられる長い板を障泥板といいます。
形状その他は、図でご覧下さい。

障泥板という用語は現在ではあまり一般に用いられていません。どちらかといえば、やや古い工法が生きている檜皮葺き、杉皮葺きや銅板葺きなどの場合に出てくる用語です。
障泥板の語源は、馬具のーつに障泥というものがありますが、この障泥から来ています。なお、障泥は泥障とも書き、どちらでもよいようです。障泥は、鞍の下に敷き込み、馬の両脇腹を包んでいる布状の毛皮や雛皮で作られます。
障泥板は棟の両側に付けられ、障泥の機能とよく似ているところが興味が湧くところです。

揚げ裏、上げ裏 (あげうら)

建物の上の方に設けられた構成部材を、下から見上げたとき部材の下面が見えますが、この下の面のことを「揚げ裏または上げ裏」と呼びました。
このうち特に軒先の揚げ裏が最もポピュラーで、単に揚げ裏といえば軒先揚げ裏のことを指すようです。
板金工事では軒先の広小舞や淀の下面を包むことがありますが、この役物のことを「揚げ裏包み」といいます

足付き鬼 (あしつきおに)

足付き鬼は鬼の両側に装飾的な付属部分を、屋根の勾配に合わせて取り付けた鬼をいいます。比較的小さい鬼の場合は、鬼本体と足が一体に作られていますが、大きな建物の屋根に付ける鬼は本体と足、さらには鬼を載せる台がそれぞれ別に作られ、取り付けて後一体とします。
ところで足はその意匠から雲、雲水や菊や蔦などの植物を模様化したものなどがあり、雲であれば雲付き、台が付けば台付きと呼びます。
なお図のように鬼を正面から見て右が右足、左が左足といいます。
足の大きさは、鬼の大きさに合わせて決められます。
図は雲付き鬼の例です。

仇折り (あだおり)

板金工事でよく見かける工作法の一つです。別に「徒折り」、「空折り」とか「無駄折り」ともいい、若干意味が異なるかも知れないが「水返し」とも呼んでいます。
役物によく見かけますが、板の縁を切断したままとせず、板切り縁から5~15㎜の部分を折り曲げます。その折り曲げることを「…には仇折りをつける」とか「…の上端は仇折りを行う」などのように用います。
仇折りの機能としては、次のような点が考えられます。
(1)板は通常切断したままであれば縁の部分に歪を生じて波を打ったようになる。この歪を消すために仇折りをつける。
(2)雨押さえの立上り部分(図の上のほうのような例)の上先端に、雨水がそれ以上昇らないように折り返る。
(3)取り付け作業時に、仇折りをつけることにより手などの負傷を防ぐ。

蟻 (あり)

蟻とはご存知の昆虫ですが、建築の世界では楔形の形状を蟻形といい、通称単に「あり」といっています。
ところで蟻は主に木造建築の仕口や継手に用いられて、図のような形をしています。
図のAは蟻の基本形で、Bは蟻(ほぞ)、Cは蟻掛け、Dは破風板頂部の拝みの箇所で、板の裏側に開き止めのための蟻桟を入れた例です。
ところで、英語では蟻のことをDovetail つまり鳩の尾と呼んでいます。しかし日本では蟻です。図Cでお分かりのように、蟻で2部材を接合するには雌雄の形の組み合わせとなりますが、多分イギリスでは雄の方を表現したもので鳩の尾となり、日本では雌の形を蟻の顎の形を連想してこの名称となったとも考えられます。こんなところにもお国柄の違いがあって興味がわきますネ。
屋根の分野にも蟻があります。蟻掛け葺きといって、立平葺きの溝板の中央を力心を入れて風に対する耐力を増やそうとする構法がそれです。主に北海道で用いられている屋根です。

蟻掛葺(ありかけぶき)

立平葺の風に対する耐カの向上を意図して考えられた屋根葺構法の一種です。見方によっては、改良型立平葺ともいえます。この構法は、比較的コストがかからない利点があります。以前は全国的に葺かれたものですが、最近は北海道を中心に立平葺とともに広く利用されています。

アングルネコ

もともと小さな形のものという意味があります。母屋を梁に取り付けるとき、胴縁を柱に取り付けるときなどに用いる山形鋼の小片をいいます。一般的には、不等辺山形鋼の150x90mm、長さ200mm程度とします。ネコは一辺を梁や柱に溶接止めし、他辺にはあらかじめ孔が明けられていて、その孔を利用して母屋や胴縁をボルト止めします。

最近は、プレス加工して作ったネコが市販されるようになりました。なおアングルネコは、ネコアングルとか、単にネコとも呼ばれています

この他ネコは、小さな手押車をネコ車といいますが、ここでは省略します。

鮟鱇 (あんこう)

軒どいと竪どいをつなぐ部材の名称をあんこうと呼んでいます。形状は図のようなもので、「三味胴」と「角胴」が代表的なものです。あんこうは鬼板(鬼瓦)などとともに板金職のもっとも腕の揮える部分で、これを作るときは各々最高の技術を屈指したものです。
あんこうは装飾を施したものが多く「飾りあんこう」と呼ばれています。
鮟鱇の呼び名の由来は定かではありませんが、多分魚のあんこうの料理法に「あんこうの吊るし切り」という方法があり、この料理の仕方が、大量の水を含み、さらに形も何となく似ていることから、あんこうと呼ぶようになったとも考えられます。

一面せん断 (いちめんせんだん)

2枚の板を重ねて継ぎ、ボルト締めして継ぎ合わせ、板に力が加わったときボルトに作用するせん断力が発生する状態を一面せん断といいます。
ボルトは2枚の板のため、ちょうどボルトを鋏みで切断するようなカが図Sの面に働きます。もしボルトの径が小さく耐力が小さいとボルトは切断されます。逆にボルトの耐力が大きいとボルト孔周辺の板が支圧耐力不足のため破壊するか、図aで示す箇所を端明きといいますが、この部分の板が破壊するかします。
板金工事では役物の継手の大部分にこの方法が応用されています。ただボルト以外にリベット止めもありますが、力が継手に加わるメカニズムは変わりません。役物の継手には板の温度伸縮のため、意外に大きな力が加わります。したがってこの継手の施工、とりわけボルトやリベットの径や数は十分な注意が必要です。

一文字瓦 (いちもじがわら)

正しくは一文字軒瓦といい、その他一文字唐草という呼び方があります。
通常多 くの瓦屋般の軒先には、軒先の先端部分の下がりの下端が円くなった軒瓦を使い ますが、一文字瓦はその下端が水平な直線になります。
瓦を葺くときは、瓦相互 の接する部分(相羽といいます)に隙間が生じないよう、瓦に鑢掛けして合わせ ます。また上下方向にも狂いのないよう下地も含め細心の施工が必要になります 。
この瓦には先端の下がり部分を大きく模様を付けたもの、下がりの位置を先端 より少し内側に入れたものなどが作られています。
一文字瓦は、下屋の額縁葺を 銅板の一文字葺きとし、室内上の屋根に用いられます。また塀の屋根の軒先に葺 かれているのを見掛けることがしばしばです。

一文字葺き (いちもんじぶき)

平板を適当な大きさの長方形に切断し、その4辺にはぜを設けたもので葺く、屋根葺き構法の一種です。この屋根は、日頃よくみかけられるポピュラーなもので、住宅の庇や吹き下げの屋根、さらにはお寺や神社の屋根に多く葺かれています。
仕上がった外観は、板の継手がちょうど煉瓦の継手のように見えます。
一文字葺きは、関西方面では「あやめ葺き」とも呼ばれていますし、山梨県では「もんち葺き」ともいうそうです。それ以外にも地方によって違う呼び名があるかも知れません。
葺き方は、屋根の場合二つの方法があって、仕上がった外観は変わりがなく見分けがつきませんが、板の加工方法は大いに違います。
そのーつは「つかみ込み葺き」 といって、図のように加工された板を、先ず左右相互にはぜで接合した後、横はぜを作ります。従って、縦はぜと横はぜが交又する部分では板が8枚となります。

一方「爪切り葺き」は横上はぜが出来上がっていて、縦はぜとの交点は板の角が切りとられています。葺くときは左右いずれかの縦はぜに葺こうとする縦はぜをはめ込み、滑らせながら取り付けます。縦と横はぜの交又する部分の板は合計5枚となります。
さて、雨漏りに対してどちらが有効かということです。
つかみ込み葺きの場合は、縦上はぜが横はぜに巻き込まれていますので、仮に雨水がはぜの中に入っても、板の裏側に入り難く、最終的にははぜ内を経て外に流れ出ます。
しかし爪切り葺きの場合は、横下はぜと縦はぜの交点が切れているので、雨水はここから中に入りやすくなっています。
その結果、つかみ込み葺きは爪切り葺きよりも0.05 (5分勾配)緩勾配の屋根にも葺くことが可能となります。実際の屋根勾配でいいますとつかみ込み葺きは0.3 、爪切り葺きは0.35が、それぞれの最小勾配といわれています。
通常、亜鉛鉄板の場合は爪切り葺きで多く葺かれ、銅板の場合はつかみ込み葺きによることが多いようです。
これらの加工された板を葺き板といいますが、いずれも横下はぜに葺き板1枚当たり2個の吊り子で下地に釘止めされます。
ところで、壁の場合は図のように横下はぜの一部に鋏を入れて、吊り子とします。

甍 (いらか)

♪甍の波と 雲の波…♪と童謡に歌われている甍は、次のような意味があります。
①建物の大棟(最も高い位置にある棟と思われる)②屋根の棟の部分の瓦③瓦葺きの屋根④切妻屋根のけらば下の三角形の壁部分
などで、甍造りともいわれますが、切妻造りの建物を指しています。
さて、甍は建築の分野でも、上記と同じ意味にしか用いられていません。板金工事でもこの言葉は見たり聞いたりしたことはありません。
瓦工事の分野では「甍棟」「甍瓦」「甍唐草」の三つがあります。
甍棟は甍瓦と甍唐草を組み合わせて構成する棟の名称で、その様子は図でご理解下さい。

口口打ち (□□うち)

軒樋の受金物の取り付け方・または取り付け方向から名付けられた軒樋受金物の種類の一つです。図のような形をし、脚の先端は打ち込みやすく尖っています。
名称は言葉の前に他の意匠的な言葉を付して用いられています。例えば化粧打ち、地打ち、S形打ち、倉打ち、蝶番つき打ち……などがあります。いずれも垂木の木口などに叩き込んで止められています。

打ち上げ (うちあげ)

軒樋の受金物の取り付け方・または取り付け方向から名付けられた軒樋受金物の種類の一つです。形は図のようなもので、垂木の下面や母屋の下面に釘を打ち上げて止めるので付いた名称です。

馬乗り掛け (うまのりがけ)

一文字葺きのように野地面に平面的に葺かれる屋根の棟の納め方の一つ。図のように棟包みを屋根葺き板のはぜに直接掛けて納める方法を馬乗り掛けといいます。
棟の稜線を蔵に見立て、鞍をまたいで乗る様子からついた名称と思われます。

裏甲 (うらこう)

社寺建築の屋根の軒先を檎成する部材の一つです。鼻隠しの下端にある裏板と茅 負の間に位置します。図でご覧下さい。
裏甲は長い1本の材で長手方向に使うの が普通で、それを布裏甲といいます。別に部材の木口を外部から見えるようにす ることがあり、これを木口裏甲または切り裏甲と呼びます。
また破風部分にある 裏甲は登り裏甲といいます。
裏甲は軒先の雨水を切るためのものですが、意匠上 の意味ももっています。

工キスパンション ジョイント

建物は温度の変化を受けて伸縮したり、地質や車輌などの振動のため、骨組みと屋根や壁などの仕上げ部材との間で、互いの位置関係が変わります。
例えば、大きな規模のL字形平面の屋根の隅谷部分は、1字2 辺の振動が違うので通常の谷仕舞いでは故障が多発することがあります。また鉄筋コンクリートの壁に接する鉄骨の下屋の屋根を葺くとき、接点となる雨押えに伸縮の機能を持たせないと、雨押えが切断されることがあります。さらに、軒樋の長いものを1本で設けると温度伸縮のため曲がったり、折れたりします。
このような2材相互の間の違った動きに支障なく追随するにはエキスパンション ジョイントが必要となります。
エキスパンション ジョイントはただ単にエキスパンションともいいます。
エキスパンション ジョイントはあらかじめ予想される2部材間の変位量(相対変位量といいます)、または1階と2階の壁のような場合に起こる2層の間の変位量(層間変位量といいます)を求め、それに対応出来る機能を持つ工法とします。もちろん、屋根や樋の場合は雨が漏れたり、風が吹き込んだりしてはいけないことは当然です。
板金工事のエキスパンション ジョイントは、薄い金属板を特殊な形に加工したものや、ゴム質や合成樹脂のシートや型材の弾力性を利用して施工します。
図は、鉄筋コンクリート造の屋上エキスパンション ジョイントと、硬質塩化ビニル製の軒樋のエキスパンション ジョイントの例です。いずれも2材間の変位量を吸収出来る機構になっています。

えぐりはぜ

正しい名称ではないようですが、銅板による一文字葺きで、掴み込みのはぜの一部を「えぐり箸(はさみ)」で丸く小さく欠いて葺く方法をいいます。
詳しくは、ある葺き板の真上に葺かれる葺き板の横・上はぜの中央部分をはぜ幅の約2/3をえぐって欠きます。この箇所の真下には、下側の葺き板の縦はぜがあります。この縦はぜは板が4枚となっていて、その部分だけ暑く浮き上がって膨れていますから、その上の横・上はぜが接触しやすくなります。このままですと、板の接触部分には毛細管現象のため雨漏りが生じやすくなります。
そこで、横・上はぜをえぐると板の接触部分の面積が少なくなり、そのため毛細管現象が発生しにくくなり、雨漏りが少なくなる、ということになります。
このような理由により、通常のえぐりなしの屋根の最小勾配は30/100といわれていますが、えぐりを行った屋根は最小勾配25/100というのが一般的な認識となっています。

拝み (おがみ)

拝みというのは破風板や垂木のように、ある勾配を持った2部材が出会う部分のことをいいます。ちょうど人の字のような形で、あたかも合掌して神仏を拝む姿から出た言葉のようです。
板金工事では破風板包みや、けらばの軒付け部分が相会したところが拝みとなります。拝みの部分は非常によく目立ち、他の所がいかに立派に出来ていても拝みが悪いと、すべてが台無しとなりかねません。したがってここは細心の注意を持って施工されます。

尾垂 (おだれ)

尾垂とは元々軒先部分で垂木の先端を隠すために取り付けられる板を指した呼び名で鼻隠しとほぼ同じもののようです。
金属屋根材の場合は、かなり変わった尾垂となります。図のように屋根材の底先端部の15~20㎜の範囲を、角度15~30度程度に下側に曲げて尾垂とします。
尾垂を付けることによって雨水は屋根面から確実に排出することができます。もし尾垂がないと、雨水は屋根材の底裏面を伝わって室内にまで達することすらあります。
さらに、尾垂があると軒先部分の板の腐食に対しても非常に有効です。

鬼 (おに)

ここでいう鬼は、屋根の棟端部に用いる鬼面を形どった鬼瓦とする。
瓦屋根の場合は、字の通り鬼瓦というが、板金業界では単に「鬼」とか、鬼板などと呼んでいる。
しかし鬼といっても必ずしも鬼面をしたものとは限らない。我国最古の鬼瓦は鬼面ではないし、現在住宅に広く用いられている「須浜」または「州浜」と呼ばれる鬼瓦は鬼面ではない。
鬼瓦は機能的には、棟の端部を覆うものである。しかし単に覆うだけの機能にとどまらず、装飾的にも信仰や迷信など色々な意味を持っている。
日本に瓦を作る技術が伝来したのは紀元588年(崇峻元年)といわれ、既にその当時朝鮮半島(新羅)では鬼面瓦が作られていた。しかし、何故か日本には鬼瓦は渡来せず、紀元640年頃になって日本的な鬼瓦が出現したようである。
ただこの時期以前には木製や銅板製の鬼瓦があった可能性も残されている。
いずれにして、頭当の鬼瓦は鬼面ではなく、別の装飾が施されていた。

奈良時代に入って、鬼は神という考え方から、鬼瓦を建物や家族を守る守護神の象徴として設けるようになった。そのためには、強い神、即ち鬼であることが必要で睨みを効かし、角を生やした鬼面が作られるようになった。
しかし、江戸時代になってからは、あまり強相の鬼瓦は隣家を睨み据えるといって嫌われはじめ別の形状が出現するきっかけとなった。その結果、般若面、おかめ面、布袋、恵比須、大黒、天女、分銅、槌、宝珠など数多く種類の鬼瓦が作られている。
鬼瓦に神格化して棟に設けるには、それなりの理由が必要となる。その論拠は、中国から渡来した陰陽学によっている。古代の建物の場合、鬼瓦には雌雄があって、雌は陰、雄は陽を表わしている。したがって、その配置は、建物の東及び南の陽の側には陰の雌の鬼瓦を、西及び北の陰の方角には陽を表わす雄の鬼瓦を取りつけることになる。
なお我国で典型的な屋根である入母屋造りの屋根には、鬼瓦が次図のように18ヶとなる。

また本棟(大棟ともいう)の鬼は垂直に取り付けると仰向に傾いて見えるので垂直に対して5/100程度で上部を外側に傾けて設置する。
鬼瓦の大きさは、本棟の鬼瓦が基準となって各部分の鬼瓦は小さくなる。例えば、本棟鬼10、降棟鬼8、ニの鬼7、稚児、妻降鬼6などである。
板金工事で作る鬼瓦は、木材で型を作り、金属板(主に銅板)をその型に合せて叩き出したものを張り付けて作る。

折下げ唐草 (おりさげからくさ)

一文字葺きや瓦棒葺きなどの軒先やけらばの部分を納めるために用いる役物、つまり唐草の一種で、図のような形状をしています。
このうちAは通常、長尺瓦棒葺きによく用いられているものです。Bは銅板葺きの唐草に見られるものです。
通常の唐草と折下げ唐草を比較すると、軒先やけらばの風に対する耐力は後者が優れていて、風荷重の大きい屋根には適している納め方です。
また、軒先での雨水のカットについても後者が優れています。とりわけ緩勾配の屋根には非常に有効です。

温度勾配 (おんどこうばい)

ある物体の両面の温度が異なるとき、熱は高温側から物体内を通って低温側に流れます。
図で材料1の温度差はθBAで、材料の熱伝動抵抗はr1ですから、温度勾配は(θBA)/r1となります。また材料2の場合は(θCB)/r2ということになります。
温度勾配は屋根や壁を憐成する複数の材料がある場合、その各層内で結露が発生するかいなかの判断をするとき重要となります。

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