用語集

用語集

金属屋根工事や板金工事では独特な用語が使われており、普段の生活では馴染みがなく意味が分かりにくいものが多くあります。そこでいくつかの用語について、解説を掲載します。
解説は、旧亜鉛鉄板会が発行しておりました『亜鉛鉄板』誌のVol.44 №5及びVol.45 №5より引用しております。執筆者はナガタニルーフシステムの永谷洋司氏です。記して感謝の意を表します。
なお、掲載にあたり省略等を行った箇所があります。

【か】

海泡 (かいほう)

海岸に台風や強い季節風が吹き付けると、海水は波となって打ち寄せ、特に岩がゴブゴツしていると波は泡となります。通常の波はすぐに消えますが、海水中にプランクトンや海藻の破砕粒子が多量に含まれた場合は、泡が消えにくくなります。この海水は、表面張力が小さいので泡が立ちやすく、粘性が増すので泡が消えにくくなるからです。
通常の泡と消えにくい泡を比較すると、泡膜の厚さは約4倍、表面張力は25~3倍となっています。
波が次々と打ち寄せると、前に発生した泡が消えないうちに次の波が泡を作ります。やがて泡は成長して大きな塊となります。丁度洗剤の泡のようになります。
ここで泡に強い風が吹き付けると、泡は風に乗って空中を飛び運ばれていきます。
もちろん泡は海水と同じ成分ですから、鉄をはじめ金属の表面に付着すれば、錆の原因になるわけです。
冬の日本海沿岸によく見掛ける現象です。
亜鉛鉄板は海岸に近い場所の使用は、海岸からの題離でその可否を判断しますが、海泡の発生する地域では一般的な判断は通用しないようです。

隠し釘止め (かくしくぎどめ)

金属板を用いる屋根や壁、さらに役物類を取り付けるときには、板を釘止めする刷ることはごく一般的に行われています。しかし、釘頭が表面に露出することは基本的に歓迎されていません。特に銅板の場合はそれがはっきりしていて、釘はすべて見えない箇所で打ち付けることが常識です。
この見えない箇所に打ち付ける釘を隠し釘といい、隠し釘を打ち付けることを隠し釘止めと呼んでいます。
図は鼻隠し状の木板を含む役物を取り付けるときの釘の打ち方を示すものです。

笠木 (かさぎ)

手摺、塀、腰羽目などの最上部分に設ける横木や横材を笠木といいます。また鳥居の最上部の横木も笠木と呼びます。
板金工事では、ビル屋上の手摺壁の天端に図Bのような笠木を取り付けます。板厚はO.8mmから2.3mm程度で加工し、取り付けられます。この場合、笠木を設ける総長さを等間隔に割り付け、継手は目地を設け、ここで取り付けます。目地はシーリングで充填します。この方法は取り付けボルトやリベットは表面に露出しません。
最近はアルミニウムの押し出し型材の笠木が多くなりました。図のCがアルミ笠木の例です。

鎹 (かすがい)

鎹は木造の建物でよく見掛ける接合用の金物です。コの字形をして、木材に打ち込みやすく両方の先端が尖っています。
ところが屋根の世界にもかすがいが使われています。一文字葺きの屋根を葺くとき葺き板を縦はぜで継ぎますが、そのまま何枚も継ぐと板の温度伸縮のために一部の葺き板がむくり上がったり、縦はぜが外れたりすることがあります。葺き板は1枚ずつになっていますが、縦と横のはぜが組み合っているため、1枚板とほぼ同じ状態になるからです。
そこで図のようにかすがいを入れます。かすがいは「かすがい板」というのが正しいでしょう。通常かすがい板は、5~6m間隔に設けられています。
かすがい板は縦はぜの方向を変える場合にも用いられます。

刀刃 (かたなば)

板金工具の一種で、はぜや仇折りを作るときに用います。
刀刃は帯鋼状の硬鋼板で作られたもので、図イのような形状をしています。長さは600㎜、幅70㎜、厚さは3㎜程度です。その2面は刃状に削って鋭角になっています。
はぜを作る場合は、図ロのように曲折機で70~80°程度に折り曲げておき、さらに鋭角に折り曲げるとき、図のような位置に刀刃を差し込み、板を拍子木などで叩いて正常な角度に折り曲げます。
一文字葺きの場合のはぜ締めは、刀刃を使って締める。したがって一文字葺きのはぜの水平面となす角度は、刀刃の刃の角度になります。ちなみに一文字葺きのはぜが密着すると雨漏りすることになります。

金切鋏 (かねきりはさみ)

金属板の切断に用いる鋏です。別に「金切箸」とか「切箸」などとも呼び、板金作業でもっとも使用頻度の高い道具の一つです。
金切鋏の種類は使用目的によって直刃、反刃、刳刃の3種類があります。
直刃は俗称で「まとも」といい、真直ぐな線上を切断するときに使います。反刃は別名、柳刃、または単に「やなぎ」といいます。湾曲線や曲線上の切断用です。
刳刃は「えぐりば」と読み、ドリルやポンチなどの開孔よりもっと大きい径の孔を開けるときに使います。
これらの金切鋏は、切断する板の厚さが薄い薄物用と厚さが厚い板の厚物用とがあります。そのほかに、波板用やダクト用などの特殊な金切鋏があります。

兜屋根 (かぶとやね)

東北の民家でよく見られる屋根の形で、寄棟屋根の一端を垂直に切り取ったような形をしています。このような形になった理由としては、養蚕農家の二階に養蚕室を設けていました。その部屋の換気や採光を計るため必然的にこのようになったものでしょう。また養蚕以外の理由としては排煙が考えられます。
兜屋根は主に藁葺き屋根に見られるものです。

唐草 (からくさ)

唐草は本来の意味は、植物の茎や蔓などを模様化したもので、漢時代の中国から渡来したようでこの名称がある。茎と蔓だけの模様や、草の葉や花実なども付けたものもあって蓮唐草とか牡丹唐草など多くの種類がある。
日本では古くから軒先にふく軒瓦の先端に唐草模様を付けることが多かった。
ところで板金の世界で唐草というのは、屋根の軒先やけらばの先端部分に水仕舞を兼ねた納め用部材を呼んでいる。形状は図のようなものがある。

これらのうち左上の唐草は長尺の瓦棒ぶきや立平ぶきなどに主に用いられるもので、捨板と唐草は一体となっている実用本位のものである。その他の唐草は、軒先の外観を重視した唐草で主に雨水によって腐食の心配のない鋼板の一文字ぶきに用いられる唐草である。
唐草は、唐小舞の先端かけらばの淀の先端に捨板を介して、または直接くぎ止めして取り付けられる。屋根板の先端は、唐草の先端部分に引っ掛けて納まることになる。

唐破風 (からはふ)

破風の形式のーつで、軒先部分の中央が上方に円く起り上がった形のものをいう。
この型式の軒は鎌倉時代に最初に出現した構法で、外国にはあまり見られないものである。
初期の唐破風は中央の成があまり高くないが、時代を経るに従って高くなっている。

図で獅子口というのは、一種の鬼瓦であって、この瓦だけは鬼と呼ばない。 獅子口の後には棟が付く。また当然谷も必要となり、加えて屋根勾配が非常に緩かになるので、金属板葺きでも瓦葺きの場合でも雨漏が発生しやすい。仕上がりの出来栄えと共に最も施工のむづかしい部分である。金属板葺きでも瓦葺きでも、屋根材の下には捨板を入れ、雨漏りを防いでいる。

菊丸瓦 (きくまるがわら)

組棟に用いる役瓦の一種で、軒先に用いる丸瓦とほぼ同じ形をしています。
使い方は、他の組棟の役瓦を上下に置いて、その中に菊丸瓦を嵌込んで構成されます。
この瓦の先端の丸い部分を「瓦当(ガトウ)」といいますが、名前の通りここには菊の花の模様が付けられています。

切り使い (きりづかい)

大きな材を2以上に分割して、異なる部材に使い分ける場合、その材を「切り使い」するといいます。
例えば、3'×6'の鉄板を2分割して別々の役物を加工するのは切り使いです。
当然のことながら、切り使いする場合には板ロスが出ないように行われます。最近では、1枚の板から複雑な形の部材を、コンピューター制御によって瞬時にしかも正確に切り使いする方法が行われています。

切妻 (きりづま)

切妻屋根は、図のように棟を中心として両側に雨水を流すよう作られた屋根の形式をいいます。
切妻の屋根は、屋根の原形とも考えられているもので、上代の切妻形住居のことを真屋(マヤ)とか両下(リョウカまたはリョウサゲ)と呼ばれていました。なお、この屋根は主に高床式の住居に用いられていたそうです。
ただし昔は単に切妻とはいわず、切妻造りというように使っていました。今我々がいう切妻とは少し意味が違うと思います。
ちなみに「妻」とは物の端を意味し、屋根を単純に大胆にスパッと切った形と通じているように思えます。
ついでですが、妻側に出入口があるものを「妻入り」といい、桁側に出入□ があるものを「平入り」 と呼びます。

組棟 (くみむね)

日木瓦の屋根で大きなものは、外観上のバランスから棟も大きくします。この方法は、金属板葺きの屋根も同様です。
棟は、通常熨斗瓦(のしがわら)という扁平な瓦を、高さに応じて何枚か重ねて構成します。しかし、熨斗瓦だけであまり高くすると、棟の両側は何の変哲もない仕上りとなります。そこで、この面を色々と装飾的にしたのが組棟です。
組棟は、基本的に「菊丸瓦」と「松皮菱」、「青海波」、「輪違」の4種類の瓦で構成されます。その組合わせは、松皮菱、青海波、輪違のいずれか1種で作られる場合と、これら3種の瓦と菊丸瓦との併用とします。
また、この組棟の下に「甍(いらか)」という役瓦を用い、さらに高級感を出す方法もあります。
ここで、蛇足ながら甍は大きな意味では通常の瓦を指しますが、瓦の世界では、棟下の部分を、丁度軒先と同じように見せるための瓦のことを特に、甍といいます。
これらの意匠は、金属屋根でも応用出来そうです。

向拝 (こうはい)

日本の社寺建築は古い時代には小規模で、簡単な形をしていました。例えば入母屋屋線でも寄練屋被でも、平面的には単純な方形をしたものです。
しかし、時代が経るにしたがって、祭祀や参拝を行うとき本屋の屋根の軒出だけでは何かと不都合が生じたらしく、平安時代の前期頃から、建物に向った正面の軒先の一部を前に突出させた作り方が出現しました。
この突き出した屋根の部分を向拝といいます。また御拝(ゴハイ)ともいいます。
さらに後世になって建物の後ろにも同様な突出屋根を設けることをするようになりました。この場合は、読み方は同じゴハイですが書き方は後拝と書きます。またこれらの屋根は階段の上にあるのが普通ですから階隠(ハシカクシ)とも呼ばれています。

越屋根、腰屋根 (こしやね)

越屋根は採光や換気のために、大屋根面より一段高く作られた小さい屋根のことをいいます。図Aのような形が一般的です。
ところで、棟の高さを高くした箱棟という棟の作り方があり、この棟でも若干の換気を行なっている例があります。しかし、この程度では換気性能が不十分で、採光はほとんど望めません。そこで、さらに高さを高くして換気、採光の性能を上げたのが越屋根といえます。
越屋根は日本全国の各地で見受けられますが、とりわけ養蚕の盛んな地方では欠かせない屋根となっています。
越屋根は妻側の小さい三角形の壁も換気、採光に活用されます。加えてこの部分は、装飾的にも色々と細かい細工が施されています。
このように広く定着している越屋根は、地方によって種々の呼び名があります。
もっとも一般的なのは「煙出し(ケムダシと読みます)」または「煙出し櫓」があって、主に関東地方での呼び方のようです。この他、「はっぽう」は近畿地方と東北地方の一部、「荷鞍破風」は青森地方、「からわ」は山梨県、「やぐら」は北関東でそれぞれ呼ばれています。
また、換気、採光部分にある窓を開閉させることの出来るものを「唇窓」と呼んだり、望楼風で手の込んだものまで多種多様です。
なお、越屋根といえるかどうか疑問ですが、図Bのようなものもあります。これは茅葺き屋根のような急勾配の屋根ならではの越屋根といえるでしょう。

小回り (こまわり)

作業者にあらかじめ1日の仕事量を割り付け、それが終了したら時間の遅速にかかわらず1 日分の日当を支払う方法を「小回り」といいます。
例えば夏の署い日、作業能率が著しく悪くなったとき、小回りを掛けますと、作業者は速く仕事を終え帰れるという意識から、作業スピードが上がります。また作業者にはダラダラとした環境から、引き締まった雰囲気になる心理的な効果もあります。
ただし、いつも小回りをしていたら、小回りの持つ良さが無くなります。時々効果的に行うことが肝要です。

ページトップへ戻る