(1/5) ルーフネット 森田喜晴
かつて「最も安価な屋根」が茅葺きであり、今、「最も高価な屋根」が茅葺きなのです。 茅葺き(かやぶき)は「萱葺き」とも書かれ、伊勢神宮では「萱」の字を使っています。茅はススキやチガヤなどを指す言葉ですが、一般的にはススキ、茅、葦(アシ、ヨシ)稲ワラ、麦ワラ、笹など、身近な草を刈り、屋根に葺いたものを広く茅葺き屋根と言うことも少なくありません。一方、用いる材料により茅葺き(かやぶき)藁葺き(わらぶき)あるいは草葺き(くさぶき)と呼んで区別する場合もあります。
一番身近な草で葺くわけですから、ヤシが生い茂るアジアの南の国ではヤシの葉で屋根が葺かれ、日本でも茅や藁が手に入り難い山間部では木の皮や、板を割いた木端で屋根を葺くことになります。
身近に勝手に生えているものを刈って使うのですから基本はタダ。農村山村の普通の人の普通の住まいや物置小屋が手近な安価な材料で葺かれてきたのですから、その材料が手近でなくなってきて、金属(金属)の板の方が安くて身近な素材になった時、それに置き換わるのも自然の流れともいえます。
篠山市お堀端の街並み。手前は瓦を載せた古い外構を残しながら、屋根は天然スレートの新しいデザイン。金属の缶詰の向こうには茅葺きも残る。
大都市周辺の茅葺きはこんな遷移が多い。半年前まで金属は棟を覆っていただけだった。茅の隙間が開き金属が屋根全面を被ってしまった。京街道の高級缶詰とはレベルが違うが。
今、多く茅葺き民家の屋根に金属が被っています。
茅葺きファンから見れば茅葺き屋根が金属葺きに変わるのは嬉しいことではありません。それを「缶詰(カンヅメ)」と呼び評価しません。一方で「缶詰屋根は茅葺きという文化を伝えて行く上でとても大切」という茅葺き職人がいます。それはどういう意味なのか。茅葺き屋根を包むちょっと愛おしい金属屋根の姿をお届けします。