No.89
(1/1) ルーフネット 森田喜晴
東京ジャーミィは、代々木上原駅から徒歩五分、井の頭通り沿いにある、日本最大のモスク(イスラム教寺院)である。ジャーミィとは「集会」という意味。元来、金曜昼の集団礼拝が行われる大規模モスクのことを、小規模なモスクと区別して集会モスクと呼び、現代のトルコでは、この集会モスクのモスクが省略されて、ただ単にジャーミィ(camii)と呼ばれる。
現在のモスクはトルコ共和国宗教庁と1997年に設立された東京モスクファウンデーションによって2000年に再建された2代目。初代のモスクは1938年に建設され、老朽化にともない1986年に解体されている。
オスマン様式建築の特長であるドームと尖塔の屋根を覆うのは鉛板である。本連載「銅屋根クロニクル」はこれまで2度鉛屋根を紹介している。No.26「金沢城(石川県)」、No.27 「瑞龍寺(富山県)」で、いずれも本協会HPのWEB版「銅屋根クロニクル」で見ることができる。
東京ジャーミィは日本最大のイスラム教寺院であると同時に東アジアで最も美しいモスクとの声もある。モスクはしばしばイスラム寺院または回教寺院と訳されるが、崇拝の対象物はなく、あくまで礼拝を行うための場である。1階にイスラム教やトルコの文化を紹介する「トルコ文化センター」が併設されており、多くの関連図書をゆったり閲覧でき、トルコの美術品が展示され、講座な
どに使われる広間もある。施設は信者以外にも広く開放されている。2階には女性用の礼拝室もあり、専従のイマーム(導師)が礼拝をリードする。敷地面積は734平方メートル、建物床面積は1,693平方メートル。
ジャーミィの前身である東京回教学院は、昭和13年(1938)にロシア帝国出身のタタール人たちのためのモスクとして設立された。このモスクが老朽化のため取り壊された後、亡命タタール人たちがトルコの国籍を取得していたことから、トルコ共和国の援助によってオスマン様式で再建され、平成12年(2000年)6月に開堂した。
設計はトルコのムハッレム・ヒリミ・シェナルプ、施工は鹿島建設。内装や屋根の銅板を含む外装の大部分にはトルコから送られた資材が用いられ、70人のトルコ人の建築家や職人によって仕上げられた。
大ドームはスラブ厚160mm、「トラスウォール(上端筋と下端筋をラチスで繋いだもの)工法」で作られており、支保工は2段のリングサポート。型枠は曲面自由度の高いメッシュ型枠を使っている。屋根はコンクリート躯体の上に塗膜防水を施し、さらに粘土を塗った上に厚さ2ミリの鉛板を葺いている。この屋根工事にもトルコの職人が携わった。
2階入り口前の広場の東屋の屋根はドームと同じ鉛板で葺かれており、間近で細部を見ることができる。