あの屋根!この屋根!

軽井沢千住博美術館

(1/2) 「施工と管理」広報委員会

当協会機関誌「施工と管理」320号の表紙に軽井沢の自然と調和した美術館の不思議な屋根の写真を掲載し、次のように紹介していた。

「建物の構成は、既存の敷地地形に合わせて緩やかに傾斜していくランドスケープような一室空間である。深く軒を出して、シルバースクリーンとUVカットガラスによって光を制御しながらも、軽井沢の風景や緑、光が室内にやわらかく入ってきて、世界的に活躍する日本画家・千住氏の芸術が融合し調和する空間を創り出している。フラットに近い屋根面の中ほどに、これまでの常識を破る大きな開口部が設けられている。こうした自由自在な躯体に、ステンレス鋼板の溶接工法「R-T工法」は適格に対応している」

森の上に穴の開いた板を被せたら、背の高い樹が顏をのぞかせた。そんな風情の屋根だ。

 2010年に建築のノーベル賞と言われるプリツカー賞をとった建築家西沢隆衛氏の作品だ。地形に沿って大きくうねる屋根。真上から見たら穴の開いた板。役物は少ないものの、実はゴルフコースのグリーンを細長い板で覆うような作業で、3次元CADを駆使した難工事だった。計算、現場実測、CAD修正を繰り返して、「光と自然を取り込む開放的で斬新な大屋根」を実現し、施主・千住博氏と設計者・西沢隆衛氏を納得させた屋根施工の技術指導担当者・秋山貴之さん(写真)に、屋根工事の勘所を聞いた。

秋山さん(左)、と工藤技術主幹(右)

設計者の屋根に対する要求は、屋根を薄くしたい、そして表面に皺(しわ)を作ること。図面を見て、「これを実現するにはステンレスシートの溶接工法であるR−T工法しかない、と思いました」。

「通常このような屋根の下地には100×50×20のCチャン(C形鋼)で下地を組みますが、そうすると屋根が厚くなってしまう。そこで何とか屋根を薄くするために特別に30×50の角パイプを使用したのですが、そうすると内部の天井などにも影響が出てきて、調整に苦労しました」。

ありえない例えだがジェットコースターの操車場のようだ。2メートルグリッドの鉄骨の上に、30×50角パイプの母屋を通し、その上にステンレスシート防水を施工する。

 「複雑な形状や、微妙な表現は今回採用したこの工法の得意とするところです。難しくはありましたが、挑戦し甲斐がありました。複雑な形状に対応するため2メートルグリッドで鉄骨を組んで下地を作ります。その4点の高さがすべて違うのです。曲面の形状だけでなく、西沢さんは、「金属面を見せたい、生きているような感じ、呼吸しているような感じを出したい」、とおっしゃっていました」。

「溶接部分では熱によって歪が生じるので、通常は歪まないようリブを付け、施工にも細心の注意を払います。ところがこの現場は「歪ませて、皺を作ってほしい」という注文なのです。だからここでは「リブなし」なんです。これだけの規模でリブなしというのは、本当に珍しいです。「施工と管理」の表紙になった写真を見ていただければわかりますが、表面に細かい襞(ひだ)ができていて、生き物の肌のようです。

屋根に大きな穴が開いていますが、この部分は曲面ガラスが筒状に地表に降りています。

屋根面に立ち上がりや役物がないので、施工面では格別に困難はありませんが、複雑な屋根の曲面、うねりを図面化するのが、最大の難関でした。板材のサイズは働き幅448ミリ。ところが屋根は3次元的にうねっているから、端から葺いていくと、合わなくなってしまう。場所によっては449ミリや450ミリとCADで解析しながら幅を変えて微調整していかねばなりません。

2年前の増築部分。

CADでうねりを読み込んで、何度もシミュレーションして図面化するのですが、それを現場に持ち込むと合わないことも多い。現場はそんなもんですよね。毎週現場に行って実測を繰り返し、CAD図面と現場での実測との整合性を図る。会社に持ち帰り3 D-C A Dで修正して、それを現場に持て行って、割り付けし、やっと職人さんに指示できる。こんなことの繰り返しでした」。

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