No.93
(1/1) ルーフネット 森田喜晴
大谷寺(おおやじ)は大谷石(凝灰岩)層の洞穴内に本堂を嵌め込んだ日本屈指の洞窟寺院である。大谷石は古くから軽量かつ独特の風合いがあるため建築素材として多方面で重宝されてきた。特に建築家フランク・ロイド・ライトによって帝国ホテル旧本館の内外装に使われ、その名が広く知られている。
大谷寺の本尊は、凝灰岩の岩壁に空海によって彫られたと伝えられる丈六(約 4.5 メートル)の千手観音で、一般には「大谷観音」の名で知られている。その千手観音はじめ、脇堂の釈迦三尊・薬師三尊・阿弥陀三尊の合計 10 躰の石仏は、「日本の石像彫刻中、優秀なる技巧を究めたもの」として、昭和 29 年 3 月に国の特別史跡に、昭和 36 年 6 月には、重要文化財に指定された。西の臼杵磨崖仏(大分県)に対し、東の磨崖仏とも称され、美術的にも優れた貴重な石仏である。その仏たちを守るために作られたのが銅板葺きの本殿と脇殿。遠見には瓦棒葺きの唐破風の向拝が岩壁から突き出しているように見える。
周辺には縄文時代の人の生活の痕跡が認められること(大谷岩陰遺跡)、また弘仁元年(810 年)に空海が千手観音を刻んでこの寺を開いたとの伝承が残ることなどから、千手観音が造立された平安時代中期には周辺住民等の信仰の地となっていたものと推定されている。さらに平安末期に
は現代に残される主要な磨崖仏の造立がほぼ完了し、鎌倉時代初期には鎌倉幕府によって坂東三十三箇所の一に定められたものと推定されている。
仁王門の背面には御止山(おとまりやま)と呼ばれる大谷石の岩壁がそびえる。門の右奥に本尊を覆うように作られた観音堂の屋根が見える。左は鐘楼。
観音堂
観音堂の鬼
弁天堂
当初、岩の面に直接彫刻した千手観音の表面に赤い朱を塗り、粘土で細かな化粧を施し、更に漆を塗り、表面には金箔が
押され金色に輝いていた。大谷寺は大谷石の採石場の中心部にあり、仏像も同じ大谷石から作られている。最新の研究では、バ―ミヤン石仏との共通点が見られることから、実際はアフガニスタンの僧侶が彫刻したと考えられている。
本殿・脇堂以外の堂宇でも、仁王門、鐘楼、弁天堂の屋根も銅板葺き。岩肌と銅屋根と紅葉のカラーコーディネートは見物だ。
宇都宮市大谷町は、古くから建築材料として利用されてきた「大谷石」が特産物。大谷寺とともに地下30メートルにある「大谷資料館」は古代ローマの宮殿のようなお洒落な空間として話題となる。「石の里・大谷」で1200年の時を遡る旅をどうぞ」というのが町の観光課のキャッチフレーズである。
アクセス:
JR 宇都宮駅西口関東バス
大谷立岩線に乗車約30分
「大谷観音前」下車、徒歩 2 分。