銅屋根クロニクル

No.76

もてなしドームの向拝は銅屋根の鼓門 金沢駅(石川県)

(1/1) ルーフネット 森田喜晴

金沢の新名所となった金沢駅兼六園口。2005年(平成17年)3月20日、北陸新幹線の金 沢延伸に合わせた駅周辺整備事業によって、当時東口と呼ばれていた位置に巨大な総ガラス製ドーム「もてなしドーム」と木製の「鼓門」が完成した。鼓の皮にあたる部分すなわち屋根は銅板葺きだ。

高さ13.7mの太い2本の柱に支えられた門は、能楽で用いられる鼓をイメージしたもの。鼓門には、米松の構造材が使用され、らせん状に組み上げられた柱と、ゆるくカーブを描く繊細な面格子の屋根が美しい。
駅を本殿に例えるなら、ガラスのドームは巨大な拝殿、その拝殿の向拝が銅屋根の堤門、といったところだろうか。

まず目を見張るのが、ガラスとアルミ合金からなる巨大な天井ドーム。使用した強化ガラスは3,019枚、アルミフレームは6,000本。ガラスとアルミと松と銅板。その様はまさに巨大なオブジェ。2011年にはアメリカの旅行雑誌「トラベル&レジャー」で、「世界で最も美しい駅14選」の6位に選出されている。

「世界で最も美しい駅14選」の6位に選出されている。

門は、能楽で用いられる鼓をイメージしたもの。

ドームの北側にはしゃれたバスターミナルが広がる。兼六園口側には、映画館を併設する大型商業施設のほか、ホテルや商業ビルが軒を連ねる。銀行や郵便局などの公共機関や、各方面に向かうバス乗り場もこちら側に集積している。

まず目を見張るのが、ガラスとアルミ合金からなる巨大な天井ドーム

大きな傘をイメージした「もてなしドーム」

大きな傘をイメージした「もてなしドーム」。ライトアップによって昼間とは違った表情をみせる。

屋根は雨を防ぐと同時に貯水装置ともなる

屋根は雨を防ぐと同時に貯水装置ともなる。

鼓門の2本の柱の内部には送水管が通っており、もてなしドームの屋根に降り注いだ雨水は、この2本の柱の内にある送水管へと流れ、貯水槽に送られている。雨や雪がとても多い金沢で、大きな傘であるドームの水が柱の下に流れ込んでいく。

大きな傘であるドームの水が柱の下に流れ込んでいく

駅構内に展示されている鼓門の構造模型

駅構内に展示されている鼓門の構造模型、屋根面の複雑な曲面がよくわかる。銅板職人の苦労が想像される。

この天井ドームは、大きな傘をイメージしているそうだ。雨や雪の多い金沢で、駅を降りた人にそっと傘を差し出す、そんな粋な心意気を表現しているとのこと。

鼓をイメージしたのは、金沢を代表する伝統芸能である能による。 金沢は、加賀藩の初代藩主・前田利家の時代から、代々能楽を愛好してきた。能には観世・ 宝生・金春・金剛・喜多の5つの流派があり、5代藩主・綱紀は、当時の徳川将軍・綱吉にならい宝生流を愛好。綱紀は宝生流をとても手厚く保護し、武家だけでなく庶民にも広が った。

「金沢へ行くと松の上から謡が降ってくる(植木屋の謡う声)」のたとえもあるほど、暮らしに能楽が溶け込み、多くの人々に愛されていた、と駅のガイドはいう。

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