No.60
(1/1) ルーフネット 森田喜晴
大正11年(1922)当時の名古屋控訴院・地方裁判所・区裁判所として建設。赤煉瓦と白い花崗岩、緑青の銅板、天然スレートの黒が織りなす荘重で華やかなネオ・バロック様式の建築は、隣接する名古屋城と一体となり、地域のシンボルとして外堀界隈の景観を引き立てている。
昭和54年(1979)に名古屋高等・地方裁判所が中区三の丸一丁目に移転した後、名古屋市は国(文化庁)や県の補助を受けて建物の保存・復原修理の工事を行い、平成元年(1989)には「名古屋市市政資料館」として整備・再生された。
この建物は、煉瓦・鉄筋コンクリート造三階建て、建物面積2341平方メートル(延床面積約7000平方メートル)、塔屋先端までの高さ約28メートル。全国8ヵ所に設置された控訴院庁舎のうち現存する最古のもので、大正11年(1922)9月、4年余の歳月と当時の金額にして約90万円をかけて名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎として竣工した。設計監督は、司法省営繕課、司法技師の金刺森太郎が主任として工事を担当した。
構造は、煉瓦積みの壁、鉄筋コンクリートの梁・床・階段、屋根の骨組みは木で造られている。このような併用構造技法は、近代建築の変遷を示す重要なものであるとして、また当時の官庁営繕の動向を知る上からも、注目すべき好例であるとして昭和59年、国の重要文化財に指定された。
明治22年(1889)大日本帝国憲法が発布されたのに伴い、裁判所構成法はドイツにならい、大審院・控訴院・地方裁判所・区裁判所の組織形態をとり、大審院は東京に、控訴院は7ヵ所(のちに8ヵ所となる)に、地方裁判所・区裁判所は各地に設置された。
裁判所庁舎は、従来の建物を転用した木造から、大審院をはじめとして煉瓦造へ、更に鉄筋コンクリート造へと、時代とともに変遷していく。控訴院庁舎も、明治10年(1877)竣工の建物を転用した長崎控訴院から、大正15年(1926)竣工の札幌控訴院まで、その構造・様式・規模ともさまざまである。全国8ヵ所の控訴院庁舎のうち、現在も残っているのは、札幌と名古屋の2か所のみ。
現在の姿は昭和60年12月から平成元年6月にかけて行われた保存修理工事を終えたもので、工事の目的は構造補強と大正11年創建当時の姿への復元であった。屋根については、昭和34年の伊勢湾台風の被害によって銅板葺きに変えられていた屋根を創建時の天然スレート葺きに復原すること、中央塔屋の銅板をすべて葺き替えた。
「重要文化財旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎保存修理工事報告書」によれば、現状(今回の改修前の時点)の屋根銅板葺きは後世に旧葺き材から変更されたもので、25年程度経過している。銅板自体の破損は少ないものの、ハゼの破損が多く、野地板の各所に漏水跡が残っていた。
創建時の屋根葺き材は塔屋を除き天然スレートが主材であり、銅板はスレートが葺けない部分への補助材として使用された。その部分が棟木、あおり板、谷、ドーマー窓、点検口、壁と屋根の取り合い、軒樋、パラペット天端などである。
「工事報告書」にはその他、劣化状況や、当初銅板葺きの特徴や技法が詳細に記されている。
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