銅屋根クロニクル

No.55

なぜルーファーにとって特別な神社なのか
近江神宮 その2 (滋賀県)

(1/1) ルーフネット 森田喜晴

それは近江神宮の祭神である天智天皇が小倉百人一首の第1番歌「秋の田の かりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ」の歌を詠んだからです。
天智天皇を祀る滋賀県近江神宮のかるた祭。毎年正月、歌かるたの祖神である天智天皇の前でかるた始めの儀が斎行されます。さらに全日本かるた協会のかるた大会、名人戦・クイーン戦がおこなわれ、 NHK が実況中継。JR大津駅や近江神宮周辺には「かるたの聖地」の大型ポスター。背景はもちろん近江神宮の 楼門です。その屋根は昨年、銅板でふき替えられています。

近江神宮とかるたの関係について、近江神宮の記録によれば、昭和 26 年 1 月 7 日に「第一回かるた祭」が、また翌年には競技かるた日本一を決める「第一期名人戦」が開催されました。昭和54年になると、滋賀県で行われた全国高校総合体育大会に合わせて、「全国高等学校かるた選手権大会」が始まっています。近江神宮では、毎年お正月に「かるた祭・かるた開きの儀」が執り行われます。かるた祭の後には、(一社) 全日本かるた協会・(一財) 天智聖徳文教財団の共催、近江神宮かるた会主管による「高松宮記念杯近江神宮全国歌かるた大会」が開催され、近年は800人を越えるかるた選手が全国より参集します。まさにかるたの聖地といえます。

秋の田のかりほの庵(いほ)の苫(とま)をあらみ
わが衣手(ころもで)は露にぬれつつ

解説:秋の稲田の番をする小屋にいると、その屋根をふいた苫の目が粗いので、私の衣の袖は、その隙間から洩れ落ちる露で、いつも濡れている。

ところで「この歌は雨漏りの歌ではないか」と思いませんか。屋根を葺いた粗末な苫の目が粗いので、隙間から雨露が漏れ落ちて、身体が濡れてしまう、というのだから。

訳は様々ありますが、 天智天皇の詠んだ歌が百人一首の第1歌。その天智天皇を祀るのが近江神宮。だから近江神宮はかるたの聖地。その歌は雨漏りを憂う歌だった。雨漏りを憂う天智天皇を祭神として祀る近江神宮は、ルーファーの神社という訳です。屋根屋の団体である当協会はJMRA、防水屋の団体である全国防水工事業協会はJRCA。防水側のル-ファー達は毎年、20人が燃水祭に参列しています。メタルルーファーのみなさんにも、 雨漏りの神様を祀る神社への参拝をお薦めします。

建築に限らず、日本ではそれぞれの業種には業界団体があり、神社もあります。料理、お菓子、美容、挟み、刷毛、筆、櫛、・・わが国では全国津々浦々、八百万(やおよろず)の神がおわします。ウィキペディアで神様一覧を見ることができます。「https://ja.wikipedia.org/wiki/ 日本の神の一覧# 日本神話由来の神」。神様にはそれぞれに、得意分野がありますから、我々はそれぞれ都合の良い、ご利益を期待して、ご神徳としています。天智天皇の歌を特別視するのは屋根屋だけではありません。建築基準法第2条(用語の定義)で「建築物」とは「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)」と定義しています。さらに屋根(主に建物の上部を覆う構造物)にもとめられる基本的機能として①防水性②耐風性③耐衝撃性が挙げられています。すなわち、 屋根がなければ建築ではない。雨露を防ぐ屋根は建築で最も大事なもの。という訳です。 ですから、建築について語るときこの歌を引用する建築関係者も少なくありません。

一昨年かるたの聖地の象徴である楼門の屋根の銅板が葺き替えられました。前号で、社殿の多くの銅板屋根は紹介しましたので今回は、工事中の屋根をお見せします。

近江神宮社殿の屋根は、平成二年に50年祭記念事業として、本殿・祝詞殿は桧皮で葺き替え、その他は銅板で葺き替えています。楼門屋根の葺き替えは、前年の宝物館に続くもので、その一部を撮影することができました。

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