銅屋根クロニクル

No.17

西本願寺伝道院(京都) ─京の街かどの伊東忠太ワールド─

(1/1) ルーフネット 森田喜晴

「西本願寺伝道院」は、伊東忠太の設計により、真宗信徒生命保険会社の本社屋として1912年竣工した。その後、時代とともに銀行、事務所、研究所、診療所と用途を変え、1973年に浄土真宗の布教使を育成する伝道院となった。
(昭和63京都市指定有形文化財)

西本願寺伝道院

京都下京の古い町並み歩いていて、ふと見上げると瓦屋根の隙間から、突然とんでもないドームが出現する。緑青い屋根のインド風建築に度肝を抜かれるのだが、かといって風景の調和を乱しているわけではない。大きくない建物なのに、その強烈な存在感で、本願寺の大伽藍にも引けを取らず、同時に京都の古い仏具店通りの街並みとも不思議なバランスを保っている。

銅板のドーム屋根を頂く八角堂を持つ個性的な外観の建物で、木と鉄のハイブリッド梁や跳ね出し部のI型鋼梁を採用するなど、当時としては斬新な技術を駆使し、意欲的試みがなされているという。
2011年の改修工事に合わせて、銅板屋の一部でも改修工事が行われた。
緑青のドーム本体の銅板はそのままだが、八角堂の屋根や、トップ写真の黒く見える勾配屋根も葺きかえられた。コーナーの四角い飾り柱の小さな屋根や谷樋も銅板施工だ。

八角堂をはじめ建物の屋根は基本的に木構造であり、八角堂の屋根の肘木も銅板で覆われる。

左下に見える三角の飾の肩の部分はコンクリート下地に0.8〜1ミリの鉛板を張り付けたようだ。
ドーナッツ状の飾りが並ぶラインはタイル張りだが、その上下はチタン葺き。下のチタンの下の庇は銅板だ。工事の圧巻は連続する波型のテラコッタの上。上のドームにつながる水切になっている。

機能とデザインが調和した伊東忠太の樋。湯島聖堂と共通するものがある。

テラコッタの隙間を埋める100枚近い銅板の水きり。叩き出しが難しく、従来これは溶接で作られていたのだが、「かえって費用も時間もかかる」、という板金職の提案で今回は叩き出しで対応、仕上がりの美しさも雨仕舞い性能も大きく向上している。

100年建築である西本願寺伝道院は、2011年に元施工の竹中工務店によって大きな改修工事が行われた。この工事に対して「現代の技術を生かした省エネ改修を行いながら、歴史的価値のある仕上げを傷つけないよう、細やかな配慮と工夫がなされている。また維持保全計画も設計思想を継承するとの方針のもと、過度に手を加えることなくロングライフ出来るものとなった」として、2012年BELCA賞を受賞している。

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